比例道
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diary/20061018

VGA液晶搭載携帯電話

ドコモのN903iにVGA+解像度の液晶が搭載された.また,三洋エプソンからはXGA解像度の小型液晶が発表された.携帯を使いこなしている人はこの手の高解像度液晶にネガティブな反応をしがちだ.実際,携帯電話搭載液晶は解像度が大きくても字や絵が綺麗に見えるなどのメリットはほとんどなく,単にカタログスペックを飾るだけであるから,ネガティブな反応は当然だろう.今のレベルでは高解像度液晶をありがたがるのは,中身を分からずカタログスペックだけで一喜一憂する無知なユーザーだけだ.
しかし,技術としては高解像度への挑戦は続いていてまだまだ発展しそうだ.この流れはカタログを飾る数値を無駄に上げるのが目的ではなく,紙並みの表現力を実現するのが目的だ.その場合議論すべきは解像度の縦横のドット数の絶対値の多寡ではなく,その密度であるppi(dpi)だ.今回発表された三洋エプソンの液晶では500ppiだ.200ppiあれば高精細と言われていた状況から考えるとこれは素晴らしい数値だ.それでは紙ではいったいどれくらいの数値が出るかだが,ペンや鉛筆で紙へ書き込むのがppiでいくつに相当するかは分からない.参考になるのはプリンターのdpi値だ.300dpiだとちょっと画質的には物足りない.600dpiだとまあまあかなという感じになり,2400dpiだと銀塩写真プリントに近づいてきたと感じる.紙並みの表現力を実現するには2400ppi(dpi)が欲しいところだ.現状の500ppiではまだまだということになる.
紙並みの表現力を達成するにはppi値だけでは不十分で,階調表現能力も重要だ.これに関してはRGBそれぞれに10bitを割り当てる(10億色)等の試みが実現されているが十分ではない.そもそも色をRGBやCMYなどの線形結合で表わそうという考え自体に限界があり,RGBのbit数をいくら増やしたところで限界がある.私は半導体レーザーを長いこと研究対象として扱っていたが,その周波数分布を測定器で計測していたとき,色というのはRGBの線形結合ではなく,光の周波数分布そのものを再現しなくては本物とは言えないと感じていた.同じことを感じた人は他にもいたらしく,最近は分光画像処理として研究されている.
紙並みの表現力を達成するのにもうひとつ重要なのは,表示されるコンテンツのフォーマットだ.携帯電話の高解像度液晶がその性能を全く出せていないのは,例えば文字フォントがベクターフォントではなくビットマップフォントであることが原因の一つだ.もともとギザギザの目立つビットマップフォントをいくら拡大表示しても綺麗になるはずがない.画像はと言えば256色フォーマットだったりする.良くてRGB565だ.プロセッサリソースやメモリリソース,通信リソースの制約からこうなってしまうのだが,せっかくの高解像度液晶がもったいない.コンテンツフォーマットの研究は先程の分光画像処理以外では,最近あまり進展はない.文字フォントはベクターフォーマットがひとつの理想解であり,精密なベクターフォントを収納できるメモリとそれを表示サイズに合わせて展開できるプロセッサパワーがあればOKでしょと一応決着が付いている.メモリや展開計算量を節約するような研究は労多い割に報われないので,取り組む人も少ない.このままでは将来超高解像度液晶が実現したとしてもコンテンツ側の理由からその性能を生かし切れないのではないかと心配だ.