重量から見たガンダムの嘘とボトムズの本当


ガンダムは水に浮く!

私もありがちなパターンだがガンダムを見てロボットにあこがれ、 大学は機械工学を選び卒業研究で上半身人型自走ロボットを作った。 実際にロボットを作っていて思ったのは、 ガンダムの設定重量は相当に嘘くさいということだ。 設定によると全長18m、重量43.4トンなのだが、航空機なみのオーダーである。 1.8m,70kgの人間がそのまま10倍の身長になったら、 体重は10倍の3乗の千倍になるから70トンになる。 これよりも軽いということは、比重が人体よりも小さいということだ。 そう、ガンダムは水より軽く、水に入れたら浮くのである。 ガンダムの歴史で、この変な数値が修正されたかというと、そんな ことは全然なく、ますます軽くなっていった。
Zガンダム:19.8m/28.7トン
Vガンダム:15.2m/17.7トン
これはガンダリウム合金(ルナチタニウム合金らしい)と続くそれの 改良型合金(ガンダリウムγ等)の恩恵ということである。 かなり怪しい。それではその合金がどれほどのものか検証してみよう。

データによる検証

まずは既知の基礎データを挙げておく。
・ザクやドムに使われているのはチタン合金である。チタン合金は 現存する合金の中では重量当りの強度が最も大きい。 合金の組成は何種類か存在するが、いずれも比重は約4.5g/cm3 である。 ムック本によっては、ザクやドムが高張力鋼でできている とするものもあるが、第二次大戦中ではあるまいしナンセンスと言っておく。 もしそうなら、後述する計算式に鋼の強度を使わなくてはならなくなり、 MSは携帯兵器で簡単に破壊できる張りぼて構造物になってしまう。
・ジオン系モビルスーツは外装甲で強度を保つモノコック構造であり、 連邦系は内部骨格フレームで強度を保つムーバブルフレーム構造である。 ただし、1年戦争のときは連邦もムーバブルフレーム技術は 完成しておらず、準モノコック構造であった。
・殆んどのガンダム関係の資料では ドムとガンダムの装甲強度はほぼ同じとされている。
・ガンダムの表面積は、人体の表面積算出式である デュポアの式を使って算出すると177m2である。 ドムは181m2である。

ドム
まずは装甲材が既知のドムから計算してみる。 これらのデータから計算するための前提を考える。 モビルスーツの内部が人間のようにぎっしり中身が詰まっているとすると、 比重が水以下になって話にならない。 そこで、骨格となるフレームと外皮である装甲およびジェネレータ等の 主機、補機以外は空間だとする。 ドムは全長18.6m、重量62.6トンだ。 デュポアの式から表面積は先に述べたように181m2である。 フレームと主機および補機重量を 無視して全て外装甲だけから構成されているとすると、その平均装甲厚x(cm)は
181*1002*x*4.5=62.6*1000*1000
x=7.7cm
ドムの平均装甲厚は7.7cmということになる。 ここで、無視したフレームや主機や補機の重量をどう扱うかだが、 装甲の一部を薄くする分と相殺すると見なすことにする。 つまりモビルスーツの足の内側や背面は、被弾可能性が低いので 装甲厚を減らしてもよいのだが、その減量分の重量でフレームや主機や 補機の重量とバランスすると考えるのである。 フレームや主機は重いので、それらとバランスするように装甲を減らしたら どこもかしこもぺらぺらの薄い装甲になってしまうかもしれない。 それでも7.7cm厚の部分は重要部分には残ると考える (ここはガンダム世界に甘すぎるのは承知だ。 実際は装甲は5cmにもならないだろう)。 必要なら他を減らした分で一部を7.7cmより厚くすることも可能ではある。 しかし、ドムやガンダムの戦闘の様子を見ると頭部も胴体も腕や脚も等しい 装甲強度を持っているのが見てとれるので、 一部だけ厚いとしてもせいぜいコクピット回りだけだろう。 チタン合金材7.7cm厚分を使い複合装甲を構成したら 鋼換算で15cm以上の装甲強度が得られる。 ドムの装甲厚はドイツのキングタイガー戦車の前面装甲程度ということになる。 キングタイガーと同じというのは、ドムのイメージにぴったりの数値だ。
ちなみにもしドムが一部のムック本で言うように鋼でできているとしたら、 装甲厚は4.3cmになる。T34や4号戦車やM4より薄いことになる。 これなら、歩兵の携帯対戦車兵器で破壊できてしまう。

ガンダム
ガンダリウム合金は、別名ルナチタニウム合金なので、月で取れた チタンを使った合金である。同じ系列の金属の比重が大きく違うことは ないから、ガンダリウム合金の比重をチタン合金と同じ 4.5g/cm3とするのは合理的である。 ガンダムの装甲厚をx(cm)とすると、先程のドムの例と同じく
177*1002*x*4.5=43.4*1000*1000
x=5.4cm
となる。5.4cm厚で7.7cm厚のチタン合金と同じ強度を出せるのだから 比率でいうと1.4倍。これは相当に素晴らしい合金である。 また、現存するものに対して1.4倍という辺りが荒唐無稽な感じではなく リアルさを感じさせる。

ガンダム世界の設定のおそまつさ

ガンダリウム合金が素晴らしいのは分かったし、そのような合金が未来に存在 するのも不自然ではないのだが、問題はその装甲厚の絶対値である。 5.4cm厚のガンダリウム合金すなわち 7.7cm厚のチタン合金相当では先程述べたように鋼換算で15cm厚である。 最近のM1戦車や レオパルド戦車が鋼換算で80cm以上(対成形炸薬弾では100cm以上) の装甲厚を持っていることに比べあまりに薄い。 戦車の何倍もの大きさなのに重さは戦車より軽いのだから 装甲が薄くて当然なのだが、一応戦闘用なのだから薄さにも限度があろう。 5.4cm厚のガンダリウム合金では、 60年前の88mm砲L71や122mm砲L46(どちらも貫通力は鋼で20cm以上) で撃たれると貫通されてしまう。 現在の戦車が装備している120mm砲ではAPFSDSを使うまでもなく AP弾で貫通してしまう。 逆にモビルスーツの装甲をやっとで貫通するモビルスーツ搭載兵器では、 戦車砲に対抗するため設計された現在戦車の装甲には 全く歯が立たないと言える。 この考えに基づいた創作小説が本ページの 「モビルスーツ対戦車」 である。
連邦の61式戦車やジオンのマゼラアタックは劇中ではモビルスーツに 全くかなわないとして描かれていたが、余程ひどい造りの戦車なのだろう。 第二次大戦の日本軍の哀しい戦車のように。 61式戦車の2連装150mm砲でモビルスーツを倒せないのは 榴弾砲もしくは初速がひどく低いとしか考えられない。 ザクマシンガンの120mm砲も同じだろう。 実際設定資料を見ると初速が200m/sとなっている。 これならガンダムの装甲を貫通できないのも当然の値だ。 初速が低いなら成形炸薬弾を使えば良いのにと思うのだが、 理解に苦しむことに成形炸薬弾の概念は基本的にないらしい。 全くおそまつな設定である。成形炸薬弾がないのだとしたら、 ドムのジャイアントバズーカからはどんな弾を発射していたのだろうか。 そもそも設定を考えた人は第二次大戦中のバズーカ砲がどういう 弾を発射するために作られたのか知っていたのだろうか。
後のOVA「第08MS小隊」では マゼラアタックが成形炸薬弾(指揮官がHEATと命令していた)を使って 陸戦型ガンダム相手に互角に戦っている。結構なことだ。 また、1stガンダムの最初の方ではザクの240mmバズーカ砲弾が ジェット噴流でガンダムのシールドに易々と穴をあけている 様子が表現されている。ものの理屈が分かっているアニメーターも 少ないが居たようだ。
当初のおそまつな設定も舞台が宇宙空間だけであったなら そんなにボロが出ることもなかったのである。宇宙ならば モビルスーツの軽さにも意味があるし、 もし存在したとしても弾速の遅い成形炸薬弾に当ることは稀だろうし、 強敵の戦車もいない。 モビルスーツを地上に降ろしてしまったのが 間違いだったのである。

ボトムズの設定の妙

装甲騎兵ボトムズのAT(アーマードトルーパー)は設定上 とてもバランスが取れている。
全高3.8m、重量6.6トン、装甲厚0.6〜1.4cm
先程の式に代入すると鋼で10cmの装甲となってしまうが、 ATサイズの場合は、フレームと主機と補機の重量は装甲を薄くする分で 相殺するのは無茶なので、10cmは到底実現できない。 1.4cmは適切である。1.4cmは少なすぎるくらいで、機械設計者としては、 控えめな仕様はとても好感が持てる。 重量6.6トンで最大装甲10cmのものを作れと言われたら困ってしまう。 無理な仕様はどこかにしわ寄せが生じてそれが弱点になってしまうものだ。 ウドの街ではバトリング用に前面装甲を10cmにして重量が1トン増えた ストロングバッカスなんて改造ATもあった。これも計算すると 標準スコープドッグから1トン増やせば1.4m2の面積は装甲を10cmにできるので、 十分可能なかつリアルな改造なのである。
話を戻して、標準スコープドッグのように約1cmの厚みがあれば、 警察のもっているピストルやマシンピストルでは 貫通できないが、12.7mm(いわゆる50口径)以上のライフルなら貫通可能なので、 物語の中の武器の有効性の描写は、納得がいくものばかりだ。 物語中、キリコはデザートイーグルをさらに大きくした みたいな対AT用大型拳銃を愛用していたが、あの程度のハンドガンならば 0.6cmの装甲最薄部ならば貫通できるだろうから、対AT用拳銃という呼び名も 適切である。
ボトムズもガンダムもデザインは大河原邦男さんなのだが、 こうも違うのはなぜなのだろう。 彼が手掛けたのはデザインだけで設定は別の人がやったのだろうか。 リアルロボットものをやる場合は、もうちょっと理科を 勉強してからやってほしいと思う。おおげさな勉強をする必要はなく、 ネットで検索する程度の勉強で十分なのだが。 そうでなければスーパーロボットや異世界物にして突っ込みが 入らないようにして欲しい。

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