ベアリング軸受け虫食い修理

単なるグリス不足程度では虫食いは発生しない．ボールとカップの間に強い力がかかると発生する．強い力がかかる原因は以下のようなものがある．

1. ボールとカップの遊び不足．ガタをなくそうとして遊びを小さめにとってしまうのはまずい．虫食いの一番の原因はこれだろう．工場出荷状態のまま使用を続けた軸受けが虫食いになることは珍しい．虫食いはオーバーホールして一度ばらして組み直した軸受けに発生することが多い．アマチュアはもちろんセミプロクラスでもガタなく組んだ方が良いという気持ちがあって，つい締めすぎてしまうのだ．
2. 異物（ボール表面が剥離したものが代表，剥離も遊び不足に起因），錆びの混入
3. 偏った力が繰り返しかかる
4. 事故等で衝撃が加わる

虫食いの発生したカップを交換するのが一番だが，フレームにカシメてあったりすると交換は不可能．そのような場合は

1. 表面が剥離したボールがあれば使用不可なので取り除く．ボールが数個ないくらいは問題ない．
2. 2割以上のボールが使用不可ならば，全ボールを新品にする．
3. ボールとカップのクリアランスを遊びが多めになるよう調整して軸受けを組む．多少のガタがあるくらいが良い．
4. ガタを我慢して通常使用をする

この補修方法は使用しているとカップが徐々に摩耗することを利用している．１年も使うと虫食いが削れて平になっているだろう．その時点で補修は完了だ．ポイントは「こんなにガタがあって良いのか？」というくらい遊びを大きくすることだ．虫食いをしてしまったカップは通常の遊びに調整すると虫食いがさらに進んでしまうからだ．

この方法は数十年に渡る経験からあみ出したもので，理論的裏付けがあるわけではない．大学の機械工学科でもこれに関することは教わらなかった．ちょっと理由を考えてみたい．
軸受けにガタがあると，使用感が悪いのは言うまでもない．それだけでなく回転中にボールがコーンにランダムにぶつかって虫食いを助長するように直感的には思える．ところが実際は逆で，ガタがあった方が虫食いは起こりにくく軸受けには優しい．これはいったいどういうことか．
虫食いが起こるときは，ひとつのボールに圧縮の強い力がかかり，かつボールの逃げ場がないときである．強い力がかかることは軸受けの役割上避けることはできない．したがってボールが逃げられる（＝逃げて他のボールと負荷を分担できる）かどうかが虫食い防止のポイントだ．ボールが逃げやすいためにはボールとカップのクリアランスがあれば良い．すなわちガタがあった方がボールが逃げやすく虫食いにはなりにくいというわけだ．
ガタがあると一部のボールに強い力が集中するのではないかという心配もある．しかし，これは杞憂だ．ガタがあろうとなかろうとボールベアリングというのは構造的に力がかかるボールは常に１個か２個なのだ．しかもその１個が力を受ける箇所は点接触なのである．１個のボールに強い力がかかることは避けられない．その状態を如何に早く解消して他のボールと役割を交代できるかが重要なのである．そのためにもガタがあった方が良い．